吉野孝公『騰越玉砕記』を読む:『慰安婦と兵士の愛と死』のさらなる増補改訂に向けて

1.
 吉野孝公『騰越玉砕記』は品野実氏が紹介してくれた。貴重な文献なので借りず、私は大急ぎで目を通し、重要と思ったことをメモした。
 ところが、そのメモの所在が分からなくなった。
 『アイデンティティと戦争』の出版は助成金の関係で期限が迫り、参考文献として挙げるだけしかできなかった。しかも、その後、様々に忙殺され、『騰越玉砕記』のついて全く忘れてしまった。
先週14日、そのメモを発見し、その意義を想い出した。また古書を入手することができた。
以下、慰安婦に関して重要と思われるところを摘記する。

2.
吉野孝公『騰越玉砕記』私刊、1979年、全146p
丸山豊軍医の序「わが友吉野、その裸の戦記」(pp.1-3)、品野実の「手記出版をお手伝いして」(pp.139-145)が収録されている。「裸の戦記」とは「いうまでもなく戦場には、書けることと書けぬこと、書きたいことと書きたくないことがある。こういう谷間をのりこえて」、吉野は「精魂こめて裸形の文章を書きつづけた。祈るように一字一字を白紙に刻みつけているのを私は見た。騰越戦死者二千八百柱の幽魂がかれの胸に火を点じた」ことでできた「戦記」だからである(p.3)。

pp.56-57「蔵重守備隊長の戦死」
pp.66-68「慰安婦決死の握り飯」
「わが身を捨てて奮死せんとする将兵達に」慰安婦達は「決死の炊きだしで握った飯」を「これまた身の危険を冒して送り届け」た。炊きだしは煙が上がるので、当然、猛攻撃を受ける。

pp.72-74「脱出と慰安婦達」
吉野達は「高木中隊長の指示に従って城内部隊救出に向う途中、城壁手前の林の中で」戦況を「見守りながら待機していた」。脱出隊が「破壊孔」から無事に出て移動した後、また「一群の人影が現れた」。脱出隊と「同じ行動で素早く降りると、私達の林の中になだれ込んできた」。20-30名の慰安婦達であった。「彼女等は鉄帽に軍服姿の雄々しさであった」が、「その顔は皆恐怖に怯えて」いた。
「しばらくたって慰安婦達の中から年配女が近付いて、「城内には日本兵隊は一人もいません。本部の太田隊長さんも死にました」と告げた。「彼女の目は鋭く光っていた」が「何か言おうとする唇がふるえてい」た。そして「必死」に「竹迫少尉の手を握り」、「隊長さん、私達を一緒に連れていって下さい。途中のことは決して迷惑はかけません。死ぬ時は私達も一緒に死にます」と訴えた。拉孟の状況を参考にすれば、殺害命令が下されたが、誰も実行せず、慰安婦達は生きて、脱出できたのである。当然、竹迫少尉はそれを知っているから、それに反する判断はできない。
 しかし、竹迫少尉が判断を下す前に、「周囲に数発の迫撃砲弾が炸裂した」ため、皆「夢中で闇の水田に飛び込んだ」。
そこから吉野達六名は逃れることができた。後述するとおり、慰安婦達も逃れられた。
吉野は地元民に二度も助けられた(pp.98-104)。日本兵を怨んでいない中国人もいたことが分かる。

pp.116-117「慰安婦達との再会」
 保山まで護送され、そこで「脱出の折、闇の中で別れた」慰安婦達と再会した。24-25名いて、多くは朝鮮人で、日本人4-5名であった。慰安婦と兵士は「互いに慰め合って時を過ごした」。まことに統率のとれた集団であった。これは『慰安婦と兵士の愛と死:限界状況において絡み合うエロスとタナトスの心理歴史的研究』第三章第四節第三項で、リーダー格の慰安婦は将校なみと述べたことを補強する。

pp.125-126昆明の「平和なキャンプ」に収容されたが、慰安婦は将兵より「更に自由で、よく市街散歩にでかけ」た。

p.127
「米軍病院内」で「強姦事件」が起きた。「元日本人慰安婦」が「捕虜同士の絆に結ばれて、昔を忘れ、かいがいしく日本兵士の世話をしていた。その若い一人が、三人の米兵に犯された」。吉野達は「その非道行為を厳重抗議した。米軍司令部は直ちに事件を調査した結果、被害者の傷害補償は勿論、加害者三名の米兵達に六カ月の重労働を科して謝罪した」。これは『慰安婦と兵士の愛と死:限界状況において絡み合うエロスとタナトスの心理歴史的研究』第三章第八節第一項に符合する。


p.131
 「朝鮮の慰安婦達は、朝鮮人民解放軍の要人達に引き取られていった。日本人慰安婦達は残って、私達の収容所に同居した」。

p.134
吉野達は漢口で,収容所に護送される途中に水上源蔵少将の息子と遭遇した。息子が父=少将の消息を尋ね、戦死を知らされた。彼は「呆然として放心したように俯いて歩いていたが、軈て私達の方に一礼残して悄然と隊列に戻っていった。」

 以上、『慰安婦と兵士の愛と死:限界状況において絡み合うエロスとタナトスの心理歴史的研究』をさらに増補改訂するときに加筆する。
 但し、『慰安婦と兵士の愛と死:煙の中に忍ぶ恋』(集広舎)はダイジェスト版なので、それは行わない。

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